全額損金計上が可能な法人保険とは?
2019年に税制改正が行われ、法人保険の経理処理方法が大きく変更されました。
以前まで人気を集めていた保険料を全額損金に算入できるタイプの商品が減り、従来のような節税対策が難しくなっています。
しかし、現在でも保険料を全額損金に算入できるケースがあるため、ルールを確認した上で上手く活用しましょう。
本記事では、税制改正後の法人保険の損金算入ルールや全額損金に算入できる「30万円特例」について解説します。
税金の負担を軽減させたいとお考えの経営者の方は、ぜひ本記事を参考にして法人保険を有効活用しましょう。
【改正版】法人保険の損金算入ルールを解説
2019年の税制改正により、法人保険の損金算入ルールは大幅に変更されています。
税制改正では「法人保険のピーク時の解約返戻率によって損金に計上する割合を決める」という形に変更となりました。
ここではピーク時解約返戻率ごとの損金算入割合について解説していきます。
ピーク時解約返戻率50%以下の場合
ピーク時の解約返戻率が50%以下の法人保険は、保険料を全額損金に計上できます。
受け取った解約返戻金は全額が益金として計上されます。
ピーク時解約返戻率50%超~70%の場合
ピーク時の解約返戻率が50%超〜70%の法人保険では、被保険者1人あたりの年間保険料によって損金算入割合が異なります。
被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下の場合
被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下であれば、支払った保険料は全額損金に算入できます。
複数人を被保険者としている場合でも、1人あたりの保険料が30万円以下であれば全額損金に算入可能です。
被保険者1人あたりの年間保険料が30万円超の場合
被保険者1人あたりの年間保険料が30万円を超える場合、段階的に損金算入をしていきます。
まず、保険期間のうち当初40%の期間は支払った保険料の40%を資産、残り60%を損金に計上します。
40%の期間を超えてから75%の期間までは保険料を全額損金に計上します。
そして75%の期間を経過してからは保険料を全額損金に計上し、当初資産に計上していた保険料を残りの保険期間中に均等に取り崩して損金計上が可能です。
ピーク時解約返戻率70%超~85%の場合
ピーク時の解約返戻率が70%超〜85%の法人保険も、段階的に損金に算入していきます。
まず、保険期間のうち当初40%の期間は支払った保険料の60%を資産、残りの40%を損金に計上します。
40%〜75%の期間までは保険料を全額損金に計上します。
75%経過以降は保険料を全額損金に計上し、当初資産に計上した保険料を残りの保険期間中に均等に取り崩して損金計上が可能です。
ピーク時解約返戻率85%超の場合
ピーク時の解約返戻率が85%を超える法人保険の場合、損金算入ルールの計算が複雑になります。
保険期間を4つの段階に分け、計算が行われる仕組みです。
まず、保険期間の当初10年間は「支払った保険料×(最高解約返戻率×90%)」で算出した金額を資産として計上、残りを損金に計上します。
11年目以降から解約返戻率がピークになる期間までは「支払った保険料×(最高解約返戻率×70%)」を資産として計上し、残りを損金に計上します。
その後、解約返戻金額が最大になる日までは支払った保険料の全額を損金に算入できます。
解約返戻金額が最大になった日から保険期間終了までは全額を損金に算入しつつ、当初資産に計上した保険料を均等に取り崩して損金計上が可能です。
支払保険料が年間30万円以下であれば全額損金算入が可能
ここまで解説してきた通り、法人保険はピーク時の解約返戻率によって損金算入の割合が異なります。
しかし一部の法人保険では、被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下の場合に保険料を全額損金に算入できるケースがあります。
全額損金に算入できるパターンは以下の2つです。
- ピーク時の解約返戻率が70%以下の定期法人保険
- 終身タイプの第三分野の保険(医療保険・がん保険など)のうち、保険料短期払いのもの
上記のパターンに該当する場合、被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下に限って保険料を全額損金に算入できるため「30万円特例」と呼ばれています。
30万円特例の対象となる法人保険の経理処理方法を解説
前述の通り、30万円特例が適用される法人保険は大きく分けて以下の2種類です。
- ピーク時の解約返戻率が70%以下の定期法人保険
- 終身タイプの第三分野の保険(医療保険・がん保険など)
それぞれの経理処理の方法について解説していきます。
ピーク時の解約返戻率が70%以下の定期法人保険
被保険者1人あたりの年間支払保険料が30万円以下で、ピーク時の解約返戻率が70%以下の定期法人保険の場合、支払った保険料は全額損金に算入可能です。
ただし、複数の保険商品に加入していて合計の保険料が30万円を超えてしまったというような場合は、全額損金に算入することはできません。
終身タイプの第三分野の保険(医療保険・がん保険など)
終身タイプの医療保険やがん保険を法人保険として契約している場合、保険料を短期払いもしくは全期払いのいずれかで支払います。
短期払いで保険料を支払い、被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下の場合に限り、支払った保険料を全額損金に計上できます。
なお、年間支払保険料が30万円を超えた場合は経理処理の方法が異なるため注意が必要です。
まず、保険料の払込期間中は「年間保険料×保険料払込期間÷保険期間(116歳−契約年齢)」で計算される金額を損金に算入、残りを資産に計上します。
そして保険料の払込期間終了後は、被保険者が116歳になるまで先ほど計算した金額を損金に計上し、資産計上していた分の保険料を取り崩します。
また、終身タイプではない定期型の医療保険・がん保険や、終身タイプで全期払いを選択した場合はピーク時の解約返戻率による経理処理を行いましょう。
保険料を損金に算入する際の注意点とは?
法人保険で保険料を損金に算入する際、以下の3つの点に注意が必要です。
- 保険料の負担を考慮する
- 年間払込保険料は合算する
- 出口戦略をしっかりと考える
それぞれの注意点を把握した上で、加入後のトラブルを避けましょう。
保険料の負担を考慮する
全額損金に算入できる法人保険は、節税効果を期待して加入するケースが少なくありません。
しかし、支払う保険料が負担になる可能性があるため注意が必要です。
法人保険はあくまでも万が一のリスクに備えつつ、上手く活用することで節税効果も得られるという商品です。
節税効果だけに注目して加入し、保険料の支払いによって会社の財務状況が悪化してしまっては元も子もありません。
法人保険を活用する際には保険料をしっかりとシミュレーションし、負担が大きくならないかを見極めた上で加入しましょう。
年間払込保険料は合算する
本記事でご紹介した「30万円特例」は、被保険者1人あたりの年間保険料の合計が30万円以下の場合に全額損金に算入できる仕組みです。
もし複数の保険を契約していた場合、年間払込保険料は合算しなければならないため注意がしておきましょう。
例えば、被保険者1人あたりの年間保険料が20万円の保険と25万円の保険に加入していた場合、どちらも30万円以下ですが合計すると45万円となってしまいます。
この場合は全額損金に算入することはできません。
年間払込保険料を合算することを頭に入れておきましょう。
出口戦略をしっかりと考える
全額損金に算入した法人保険の保険料は、受け取る解約返戻金が益金となります。
益金は課税対象となるため、解約返戻金を受け取るタイミングの出口戦略も考えておきましょう。
例えば受け取った解約返戻金を退職金の支払いに充てると、退職金が損金になるため益金と相殺できます。
従業員や役員が退職するタイミングに解約返戻率のピークが来るように設定しておくと良いでしょう。
このように、解約返戻金を受け取るタイミングの戦略を事前に考えた上で法人保険を契約しましょう。
【記事まとめ】法人保険の保険料は全額損金算入できる?
法人保険を上手く活用すると、支払う保険料を全額損金に算入できます。
30万円特例による経理処理の方法を正しく把握し、税金の負担を軽減させましょう。
また、保険料を損金に算入する際、保険料の負担を考慮したり、出口戦略をしっかりと考えておいたりすることが重要です。
ぜひ本記事でご紹介した内容を参考に、自社に最適な法人保険を活用しましょう。