持分あり医療法人における出資持分の「贈与」とは?具体的な手順を解説

持分あり医療法人における出資持分の「贈与」について解説

医療経営に関わる人であれば、医療法人には「出資持分のある医療法人」と、「出資持分のない医療法人」とがあることはご存じの方も多いでしょう。

医療法人の持分とは、一言でいうと、医療法人の財産権のこと。

持分あり医療法人は財産権のある医療法人、持分なし医療法人は、財産権のない医療法人と言い換えることができます。

つまり、財産移転のうちの1種である「贈与」がかかわるのは、「持分あり医療法人」の場合となります。

この記事では、「持分あり医療法人」の財産移転方法である「贈与」について、その概要と具体的な手順をご紹介します。

医療法人の財産移転や、「持分なし医療法人」への移行をお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

「持分あり」と「持分なし」とは?出資持分の概要と評価方法について確認

「持分あり」と「持分なし」とは?出資持分の概要と評価方法について確認

医療法人の財産移転について調べていくと、必ず耳にするのが「持分あり」と「持分なし」という言葉です。

この2つは財産の移転の際、法務上の扱いに大きな違いがあります。

まずは出資持分の概要と評価の方法を確認。

そのうえで、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」の違いについて解説します。

概要

出資金とは、医療法人が経営をしていく上で原資となる財産のことです。株式会社でいえば、資本金に似ています。

また、出資持分とは、出資者が出資額に応じて医療法人に対して有する持分割合=財産権のことです。

厚生労働省によると、以下のように定義づけられています。

定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利

※参照:「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」厚生労働省医政局医療経営支援課

出資持分の評価

医療法人の出資の評価は、取引相場のない株式の評価方式に準じて評価することとなっています。

つまり、医療法人の規模により、類似業種比準方式、類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式及び純資産価額方式により評価することとされています(財基通 1942)。

なお、医療法人は剰余金の配当が禁止されていることから配当還元方式による評価は適用できないことや、社員の議決権が平等であるなどの特色を有していますので、取引相場のない株式の評価方式と異なる部分があります。

また、医療法人であっても、その法人が比準要素数1の会社、株式保有特定会社、土地保 有特定会社、開業後3年未満の会社等又は開業前又は休業中の会社に該当する場合は、それらの特定の評価会社の株式の評価方法に準じて評価することになります(財基通 1942)。

「持分あり」と「持分なし」の違いとは?

医療法人は、「出資持分のある医療法人」(以下「持分あり医療法人」と略)と、「出資持分のない医療法人」(以下、持分なし医療法人と略)とに大別されています。

それぞれのについて、以下で解説します。

持分あり

持分あり医療法人は、医療法人が作成した定款(法人の基本的なあり方を定めた法定文書)において、「出資」に関する規定が記載され、法人設立時に、出資が行われている医療法人のことです。

持分あり医療法人には以下のような特徴があります。

  1. 医療法人を解散させた場合に、財産の返還を受けることができる権利がある
  2. 出資した割合に応じて、医療法人の財産の返還を求めることができる権利がある
  3. 1と2の権利を相続させることができる
  4. 出資者に相続が起きた時に多額の相続税がかかる

持分あり医療法人は、2007(平成19年)年4月の第5次医療法改正以後、新規設立ができなくなっているので、現存する持分あり医療法人は、それ以前に設立された医療法人が、経過措置として存続を認められているものです。

持分なし

定款において出資が定められていない医療法人が「持分なし医療法人」ということになります。

持分なし医療法人には以下のような特徴があります。

  1. 医療法人を解散させた場合に、財産の返還を受けることができない
  2. 出資した割合に応じた医療法人の財産の返還を求めることができない
  3. 権利を相続させることはできない(そもそも権利がない)
  4. 出資者に相続が起きた時に、相続税がかからない

持分なし医療法人が解散した場合は、医療法人の財産は、国、または他の医療法人に引き継がれることになります。

また、持分なし医療法人のうち、基金制度を採用した法人を「基金拠出型医療法人」と呼びます。

基金とは、医療法人に拠出された金銭や財産について、医療法人と拠出者との間の合意の定めるところに従い、返還義務を負うものをいいます。

現在、新しく設立される医療法人のほとんどは「基金拠出型医療法人」です。

ここまで、出資持分の概要と評価方法、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」の違いについて解説しました。

持分なし医療法人の場合には、医療法人の権利を相続させることはできません。

そもそも財産権が認められていませんので、相続も何もない、ということになります。

そのため、ここからは、「持分あり医療法人」における財産移転の方法や、そのうちの一つである「贈与」を行う場合の手順について取り上げていきます。

「持分あり医療法人」における財産の移転方法は以下の3種類

持分あり医療法人における財産の移転方法は以下の3種類です。

  • 譲渡
  • 相続
  • 贈与

それぞれについて解説します。

譲渡

医療法人の出資持分は財産性がある有価証券に該当するものと考えられ、特別な規制がされていない限り、その一部または全部を自由に譲渡することができるとされています。

医療法においても、持分の定めのある社団医療法人(経過措置型医療法人)の出資持分の譲渡に関して、特に規制する規定はありません。

<したがって、医療法人の出資持分は自由に譲渡できるものと考えられており、実際に譲渡されています。

所得税法上、医療法人の出資持分は有価証券の譲渡と同様に、その譲渡益は譲渡所得として課税され、その税率は20.315%(所得税、復興特別所得税の15.315%、住民税5%)です。

相続

持分あり医療法人における持分は、相続が可能です。

この場合、相続人が医者ではなくでも相続することができます。

もちろん、出資持分は財産権の一種ですので、これを相続する場合には相続税(最高税率55%)の対象となります。

ただし、納付すべき相続税のうち、この特例の適用を受ける持分の価額に対応する相続税については、下記の要件を満たすことにより、認定移行計画に記載された移行期限までその納税が猶予されます。(医療法人持分納税猶予税額)

  • 相続人等が、医療法人の持分を被相続人から相続または遺贈により取得した場合
  • その医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人である場合

贈与

持分あり医療法人における持分は、贈与をすることも可能です。

贈与においても贈与税(最高税率55%)が課されます。

ただし、贈与の場合、原則相続開始前10年間における贈与は、遺留分の対象となります。(令和元年7月1日以後の相続から適用)

こちらも相続の場合と同じく、下記の要件を満たす場合には、その受贈者の贈与税額から放棄相当贈与税額を控除します。(医療法人持分税額控除額)

  • 認定医療法人の持分を有する人(贈与者)がその持分の全部または一部の放棄をしたことにより、その認定医療法人の持分を有する他の人(受贈者)に贈与税が課される場合
  • その受贈者がその放棄の時からその放棄による経済的利益に係る贈与税の申告期限までの間に、認定医療法人の持分の全部または一部を放棄したとき

医療法人において出資持分を「贈与」する場合の手順

医療法人において出資持分を「贈与」する場合の手順

実際に出資持分を贈与する際の手順は以下の通りです

  1. 出資持分の評価
  2. 贈与者と受贈者の決定
  3. 贈与額の決定
  4. 贈与の実施と証拠書類の作成
  5. 贈与税の申告と納税(必要な場合のみ)

ここでは、とくに注意が必要な①出資持分の評価、④贈与の実施と証拠書類の作成、⑤贈与税の申告と納税(必要な場合のみ)について解説します。

①出資持分の評価

医療法人の出資の評価は、取引相場のない株式の評価方式に準じて評価することとなっています。

つまり、医療法人の規模により、類似業種比準方式、類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式及び純資産価額方式により評価することとされています。

なお、医療法人は剰余金の配当が禁止されていることから配当還元方式による評価は適用できないことや、社員の議決権が平等であるなどの特色を有していますので、取引相場のない株式の評価方式と異なる部分があります。

また、医療法人であっても、その法人が比準要素数1の会社、株式保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等又は開業前又は休業中の会社に該当する場合は、それらの特定の評価会社の株式の評価方法に準じて評価することになります。

規模の判定等とそれによる評価方式の区分は、「小売・サービス」の基準により取引相場のない株式と同様の方式で行います。類似業種比準価額を計算する場合の業種目は、「その他の産業」とされています。

④贈与の実施と証拠書類の作成

出資持分の贈与にあたっては、贈与したという「事実」を証明しておかなければなりません。

不動産などの場合は、登記や登録の制度がありますから、所有権移転の事実はこれによって証明できます。

しかし、出資持分の移動については、法的な制度による立証手段がありません。

このため、相続が発生した場合、財産が生前に移動し、相続時の所有権は被相続人ではなく、相続人のものであるということを、納税者側から積極的に証明していく必要があるわけです。

具体的には贈与契約書を作成し、客観的にみても贈与の事実があったと認められる状況をつくります。

また、相続対策の一環として実施される贈与についても、当然のことながら贈与額によっては贈与税の申告及び納税が必要となります

⑤贈与税の申告と納税(必要な場合のみ)

贈与を受けた場合、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与された財産の合計額が基礎控除の110万円を超えるときは、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、その者の住所地を管轄する税務署に贈与税の申告書を提出し、贈与を受けた年の翌年3月15日まで贈与税を納付しなければなりません。

その他、特別な場合の贈与税の計算方法についても確認しておきましょう。

生前贈手加算

相続開始前3年以内の贈与財産の相続財産への加算制度は、相続または遺贈によって財産を取得した者が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与によって財産を取得しているときは、その贈与があった時の贈与財産の価格を相続税の課税価格に加算し、その加算後の金額を相続税の課税価格として相続税を計算するというものです。

相続税精算課税制度

「相続時精算課税制度」とは、受贈者が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。

計算の結果、相続税の納税を要しない場合には、遡って贈与税がかかることはありません。

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記事まとめ

記事まとめ

この記事では、「持分あり医療法人」の財産移転方法である「贈与」について、その概要と具体的な手順をご紹介しました。

持ち分ありの医療法人の場合は、その医療法人の経営が優良であればあるほどその持ち分は高額になるという特性を持っています。
高額な出資持分を相続が発生したり、事業承継などで後継者へ譲渡・贈与すると多額の贈与税が発生することになります。

一方、持分なし医療法人においては出資という概念がなく、出資者やそれに伴う評価額は存在しません。
そのため、財産面での承継は一切必要なく、社員や役員の変更だけで円滑な事業承継を実現させることが可能となっています。
厚生労働省は「地域に継続的な医療を提供する」ために、医療法人が安定した経営をできるように、持ち分なしの医療法人に移行を推奨しており、そのための法制度が整備されています。

これらを考慮し、将来、親族への事業継承が確定している場合には、「持分なし医療法人」への移行をおすすめします。

もし、将来のために持分なし医療法人への移行をご検討している場合は、一度、七福計画株式会社をはじめとする、経営コンサルタントや税理士にご相談ください。

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