医療法人化のメリットやデメリットについて解説!リスク対策は保険で対応

医療法人化のリスクやデメリットとは?

「医療法人化したいけど経営に不安がある」「医療法人開業後のリスクマネジメントはどうしたらいい?」

そんなお悩みをお持ちの方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?

医療法人化すると、事業承継対策になることや事業展開しやすいなどの利点があげられますが、もちろん法人ならではのデメリットやリスクも付きまといます。

この記事では、医療法人とはどのようなものなのか、個人クリニックとの違いについて確認。

そのうえで、医療法人化のメリットやデメリット、リスクマネジメントについて解説します。

医療法人の設立をお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

医療法人とは

医療法人とは

医療法人とは、病院、医師や歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設、または介護医療院の開設を目的としています。

「医療法」という法律に基づいて設立される法人です。

医療法では、医療法人の形態を「社団法人」または「財団法人」と定めていますが、大多数は社団法人です。

また、各法人の出資者は「社員」と呼ばれます。

出資者が、出資持分に応じて払戻請求権を保有する場合は「出資持分のある法人」と呼ばれ、払戻請求権を保有しない場合は「出資持分のない法人」といいます。

「出資持分のない法人」のうち、公益性に関する一定の条件を満たしている法人は、租税特別措置法に基づき、法人税の軽減税率が適用される「特定医療法人」に分類されます。

医療法人の種類

医療法人には以下の2種類があります。

  • 社団医療法人
  • 財団医療法人

まず「社団医療法人」とは、医療の提供や医学・歯学の研究を目的とし、法人が設立される形態です。

医師や歯科医師などの医療関係者が集まって設立され、医療や介護の提供を主な目的として活動します。

一方の「財団医療法人」は、医療の発展や医学・歯学の研究を目指して、法人が設立される形態であり、資金の管理や運用が重要な役割を果たします。

厚生労働省の集計によると令和5年の法人数は、社団医療法人が57,643に対して、財団医療法人は362と、社団医療法人が圧倒的に多い状況です。

出典:厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」(20231031)

個人クリニックとの違いは?

個人クリニックとの違い一覧は以下の通りです。

医療法人 個人クリニック
種類 病院、診療所、介護老人保健施設、看護師学校、医学研究所、精神障害者社会復帰施設など 病院・診療所
許認可 都道府県知事の許可が必要 届け出のみ
登記 必要 不要
診療所数 複数の分院が開設可能 1カ所のみ
役員報酬 1年固定で自由に決定可能 なし ※売上-経費が利益になる
決算日 1年以内で自由に決定可能 12月31日
決算書の提出 必要 不要 ※青色申告者は必要
退職金制度 あり なし
社会保険 加入義務あり 5人以下の場合は加入義務なし
立ち入り検査 定期的にある なし

個人病院や診療所(クリニック)は、営利目的の活動が可能です。財産や収入は経営者個人に帰属するため、自由に使えます。

それに対して医療法人は個人である医師とは別人格になるため、経営で得た財産はすべて医療法人に帰属します。

これにより、医療法人では契約や報酬など事業運営に関する要素は、明確に医師個人と法人で区別されます。

例えば、個人病院の場合、売上から経費を差し引いた事業所得はそのまま自分個人の所得になっていたかと思います。

しかし、医療法人化すると、個人と法人の財産が明確に分けられるため、医療法人の経営者となる自分自身に医療法人から給与が支払われることになるのです。

また医療法人の場合、開設できる施設数や行える業務範囲など、普通の法人化にはない違いもあります。

特に、開設できる施設数や業務範囲は今後の事業計画にも大きく関わってくるところです。

例えば分院をして事業規模を大きくしたいなら、医療法人化は避けられません。

もしくは診療所・病院以外の施設を開設したいという場合も医療法人化が必須です。

法人の5つのメリットについて解説

法人の5つのメリットについて解説

医療法人の5つのメリットは以下の通りです。

  • 分院展開がスムーズ
  • 事業継承・相続対策が可能
  • 退職金の支給が可能
  • 節税が可能
  • 社会的信用度が向上する

それぞれについて詳しく解説します。

①分院展開がスムーズ

上記の通り、個人病院では分院の開設をすることが認められていません。

その一方で、医療法人化することで分院の開設が可能になります。

分院開設の大きなメリットは、売り上げ増を見込める点です。診療圏や診察範囲を拡大できます。

分院は、県をまたいで設けることも可能です。

その場合は広域医療法人となるため、定款変更許可申請が必要になるケースもあり、より複雑化してしまいますが、活動の場を幅広い地域に広げたい場合は挑戦してみましょう。

また、本院が外来専門の診療所として運営されている場合、分院には住宅診療専門などの本院にはない機能を新しく設けることも可能です。

例えば、本院が整形外科の場合は、リハビリ専門のクリニックを分院として設けることで、法人内提携を実現することができます。

相乗効果で売上の底上げにも寄与するでしょう。

また、スケールメリットを利用して医薬品や消耗品、検査費用などを割安で入手することができるため、経費削減にもつながります。

②事業継承・相続対策が可能

個人病院を経営する開業医の場合、事業承継の際にはその事業規模や収益に応じて多額の相続税や贈与税が課されます。

その一方で、医療法人として事業承継を行う際には、原則として相続税はかからず、理事長の変更のみで承継することができるというメリットがあります。

これは「持分なし医療法人」に限り、この場合は財産を相続する権利がないことから、相続税がかかりません。

平成19年4月1日以降に医療法人を設立した場合や、法人化した場合は「持分なし医療法人」となります。

③退職金の支給が可能

③退職金の支給が可能

公益財団の医療法人は、院長や配偶者は「死亡退職慰労金」や「弔慰金」、「特別功労金」、などの退職金を受け取ることができます。

死亡退職時と通常退職時によって受け取れる退職金の種類が異なります。

例えば、死亡退職時には「死亡退職慰労金」、「弔慰金」、「特別功労金」は死亡退職時に受け取ることが可能です。

「退職慰労金」、「特別功労金」は通常退職時に受け取れる退職金と定められています。

退職金の額が適正範囲内であれば、公益財団の医療法人は、その支払った退職金の金額を金額損金に算入することも可能です。

④短期的な税金対策が可能

医療法人化における一番のメリットは、「短期的な税金対策が可能」ということでしょう。

そもそも、個人開業医が納める所得税の税率は最大45%で、住民税を加えると55%にもなりますが、医療法人が納める法人税はそれよりも税率が低く、法人事業税を加えても30%程度まで抑えられます。

所得税は累進課税制なので、医業利益が多くなるほど医療法人化による節税メリットが大きく、手元に残るお金を増やせるのです。

さらに、給与所得控除や所得分散による間接的な節税効果もあります。

以下で詳しく解説します。

給与所得控除

医療法人化を行うと医療法人から役員報酬が支払われるようになり、「給与」として所得を処理することが可能です。

つまり、給与所得控除が受けられるようになるため、その分、節税効果が得られます。

給与所得控除はサラリーマンと同じく、給料の5%+170万ほど受けることが可能です。

例えば、1,500万円の理事報酬には、令和2年より195万円の給与所得が控除されます。

個人事業では、経営者の報酬は経費として認められていませんから、青色申告特別控除が65万円つくことになります。

これは、単純計算で毎年130万円経費が増えるのと同等の効果があるといえます。

さらに、所得税や住民税の最高税率が下がるため、個人クリニックと医療法人では税金の額に大きな差が出るでしょう。

理事報酬の活用、所得分散による課税額の縮小

家族を理事に入れることで、医療法人の理事報酬を支払うことができます。

給与を理事長一人に集中させてしまうと個人の納税額が大きくなります。

 そのため、理事長の給与を抑えて家族に分散することで、家族単位で見た場合の収入は同額でも課税額は小さくすることができます。

⑤社会的信用度が向上する

医療法人は、設立の際に厳正な審査を経て都道府県知事より認可を受けています。

さらに事業報告書や監査報告書の提出によって適正な管理ができるので、財務状況の明確化につながります。

これらの点から、医療法人化によって金融機関からの融資を受けやすくなるなど、社会的信用度は高くなるといえるでしょう。

【確認必須】法人化におけるデメリットやリスクとは?

【確認必須】法人化におけるデメリットやリスクとは?

医療法人化による3つのデメリットや注意点は以下の通りです。

  • 理事長個人の可処分所得が減少する
  • 社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加する
  • 設立時・設立後に定期的に複雑な手続き(届出や登記)が必要になる

以下でそれぞれについて解説します。

①理事長個人の可処分所得が減少する

医療法人化の最大のデメリットは、理事長個人の可処分所得が減少するという事です。

個人開業の場合には、医業収益から費用を引いた差額が所得となり、所得税と住民税の負担をした残り分は自由に使える個人財産となります。

その一方で、医療法人の場合は、医療収益から費用を引いた差額に対して法人税が課税され、残り分は医療法人の資金となるためにこれは自由に使う事が出来ません。

さらに、医療法人設立に際して、個人診療所時代の借入金を医療法人に引継ぐためには、一定要件を満たす必要があり、すべてを医療法人に引継ぐことができない場合があります。

その結果、個人に多額の借入金が残ってしまい、かつ、個人可処分所得が減少してしまうと、個人の借入金の返済が苦しくなることも考えられます。

税の軽減効果だけ考慮するのではなく、設立後の個人のキャッフローについても、検討しなければなりません。

②社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加する

社会保険とは、勤務先で健康保険と厚生年金に加入出来るかと言う事ですが、医療法人の場合は必ず加入しなくてはなりません。

個人医院でも職員が5人以上となると加入する義務が発生します。

確かに、社会保険料が発生することになるので、確かに雇用側の負担は増加します。

その一方で、社会保険があるというのは一職場としての魅力につながるため、採用時の応募率や採用後の職場定着率の向上が見込めるでしょう。

③設立時・設立後に定期的に複雑な手続き(届出や登記)が必要になる

事業報告書や資産登記、理事会の議事録などをたびたび作成しなければならなくなります。

設立時については、かなり複雑な手続きが必要となりますので、院長先生ご本人や事務長が行うことは不可能です。

設立時の手続きは外部への委託が必要になります。

また、医療法人は、事業年度終了後に都道府県に対して事業報告書の提出が義務付けられており、この事業報告書は誰でも閲覧が出来ます。

つまり、自分の医療機関の財務情報が公表されるという事ですから、見せたくない情報が開示されるというデメリットがあります。

あとはこの事業報告書の提出や、総資産の登記変更など細々とした事務が発生するために、その都度、手間と費用が発生する点もデメリットと言えるでしょう。

医療法人のリスクには法人保険での対応が必要不可欠

医療法人のリスクには法人保険での対応が必要不可欠

医療法人のリスクには、法人保険による対応が必要不可欠です。

ここでは、法人保険によるリスクマネジメントについて確認していきます。

賠償リスクと損害保険

医療法人は、その性質上、賠償リスクへの対策が必要不可欠です。

ここでは、賠償リスクに備えるための損害保険の種類について解説していきます。

1. 施設賠償責任保険

医療法人においては、病院施設、設備、機器等の不備や、業務活動の上でのミスが原因で、第三者に傷害を与えた場合等(建物の火災によって患者が死亡した場合等)に、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険です。

保険商品によっては、被害者への「損害賠償金」に加え、「弁護士費用」等の各種費用も補償されます。

2. 医師賠償責任保険

医師賠償責任保険とは、保険期間中に、被保険者である医師が日本国内で行った医療行為によって患者の生命・身体の障害が発見されたときに、医師が負う法律上の損害賠償責任を補償する保険です。

例えば、医師本人の医療行為によって以下のような医療事故が起きた場合に補償されます。

  • 手術ミスで、患者が重篤な後遺症を負った場合
  • 誤った診断で患者の症状が悪化した
  • 衛生管理の不備で院内感染が発生し、入院患者が他の病気になってしまったなど

医師や歯科医師が対象である一般の医師賠償責任保険、日本医師会会員が対象である日本医師会の医師賠償責任保険があります。

3.看護師賠償責任保険

看護師が間違って他人を傷付けた場合等、その看護師等に対して補償金を給付することによって被る損害や、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険です。

主に保健師・助産師・看護師・准看護師が行う業務が看護職賠償責任保険の補償対象です。

通常業務以外に災害派遣や特定行為、保健・健康教育業務、さらには業務上のスキルアップを目的として参加する研修や臨床実習も対象となっています。

また対象となるすべての業務に対して報酬が発生したかどうかは問われないため、ボランティアでの看護業務も対象となります。

資金リスクと生命保険

医療法人経営を行う上での資金リスクには、生命保険で対応することがおすすめです。

ここでは、生命保険で対応可能な資金リスクについて解説します。

1. 役員退職金の準備

役員退職金とは、退職をした役員に対して会社が支払うお金のことで、一般従業員の退職金の場合は就業規則の退職金規程に基づいて支給します。

役員退職金を支給するには定款に定めるか、株主総会の決議が必要です。

先述の通り、医療法人を設立すると、院長やその配偶者は退職時に特別功労金や退職慰労金の受けることが出来ます。

そして、死亡退職については、本人か遺族が医療法人から特別功労金、死亡退職慰労金、弔慰金、などを受取ることが可能です。

これらの勇退と死亡の両方の退職につき、生命保険を活用することでより手厚い退職資金を準備することができます。

2. 医業保障資金の準備

経営者たる理事長が万一死亡した場合に、借入金の返済資金のような、医業継続のための資金を準備できます。

医療機器の購入や病院の建設等のために医療法人が金融機関から借入を行っている資金は、万一、理事長が死亡した際には返済が必要となります。

そこで、借入金相当額の生命保険に加入しておくことで、支払財源を確保することが可能です。

3. 福利厚生

​​法人保険の中には、解約をすると解約返戻金が受け取れる商品もあります。

法人保険は、万が一のことがあれば役員や従業員の遺族に死亡保険金が支払われるうえ、解約返戻金や満期保険金を利用して役員や従業員への退職金の支払原資にできるなど、福利厚生を充実させることも可能です。​

​​また、契約する段階で、解約したときの解約返戻金や満期保険金のおおよその金額がわかるため、退職金を計画的に準備できるでしょう。​

経営全般のお悩みは七福計画株式会社までご相談ください

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【記事まとめ】医療法人化のリスクには法人保険で対応

【記事まとめ】医療法人化のリスクには法人保険で対応

この記事では、医療法人とはどのようなものなのか、個人クリニックとの違いについて確認。

そのうえで、医療法人化のメリットやデメリット、リスクマネジメントについても解説しました。

医療法人は、その性質上、日ごろから賠償リスクや資金リスクに備えておくことが必要不可欠となります。

そのリスクマネジメントとして、法人保険の活用がおすすめです。

ただし、保険に加入すると、継続的に保険料を支払う必要があります。

加入後、長期にわたって保険料を支払い続けられるかどうかについて、事業状況と照らし合わせたうえで慎重に検討しましょう。

また、法人向けの生命保険は役員向け、従業員向けなどさまざまな種類があるため全て加入するわけにはいきませ​​ん​​。

企業の状況を考慮して優先順位を決めて加入を検討しましょう。​

医療法人の設立・運営に関するご相談はこちら

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