医療法人を設立する際の健康保険の取り扱いについて
医療法人の設立を考えている場合、最初に解決したいのが「保険」の問題です。
日本では、医師が加入できる健康保険として「医師国民健康保険組合」というものがありますが、医療法人を設立するとなった場合には、この保険についても扱いが変わってきます。
この記事では、医療法人を設立する場合の保険の取り扱いについて解説します。
医療法人の設立をご検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
【注意】医療法人には「社会保険」への加入が義務づけられています
社会保険とは、勤務先で健康保険と厚生年金に加入出来るかと言う事ですが、医療法人の場合は必ず加入しなくてはなりません。
個人医院でも職員が5人以上となると加入する義務が発生します。
つまり、医療法人の場合は多くが、協会けんぽ+厚生年金の組み合わせとなります。
社会保険料が発生することになるので、雇用側の負担が増加するだけではないか?という声も多く上がります。
ですが、社会保険があるというのは一職場としての魅力につながるため、採用時の応募率や採用後の職場定着率の向上が見込めるでしょう。
国民年金よりも厚生年金に加入しておいた方が、将来受け取る年金額に大きな違いが有りますし、健康保険も合わせて支払金額の半分を勤務先が負担してくれるので、働く人にとってもお得である事は言うまでもありません。
そう考えると、単に損をするわけではないということがわかります。
医師が加入できる健康保険「医師国民健康保険組合」とは?
健康保険といっても、自営業か会社勤めかなどによって、加入する保険は異なってきます。
また、会社独自や同じ業種で健康保険組合をつくることも可能です。
医師の場合、医師会に所属することで加入できる健康保険が医師国民健康保険組合となります。
医師国保組合は、医師およびその家族と従業員・家族のために設立され、47都道府県すべてにあります。
各組合が行う保健事業は、人間ドックへの補助、各種検診、保養施設との提携など、さまざまです。
加入要件
医師国民健康保険組合の加入要件は以下の通りです。
- 都道府県医師会員であること。但し一部の医師国保組合では、地区医師会員だけでも認めるところがある。
- 医療・介護を行う個人事業所の開設者・管理者、またはその事業所の業務に従事している者。 なお、法人事業所の新規加入は認められていません。
- 組合規約に定める地域に居住していること(各都道府県医師国保組合によって居住地域が相違)。
- 75歳未満であること。
- 加入に必要な主な書類(各都道府県医師国保組合によって相違)
加入に必要な主な書類は以下の通りです。
- 国民健康保険被保険者資格取得届
- 医師免許コピー
- 県医師会の入会を証明するもの
- 住民票 など
必要書類や手続きは各都道府県によって相違がありますので、まずは各都道府県医師国保組合のホームページをご確認ください。
国民健康保険との違い
国民健康保険と医師国民健康保険組合の大きな違いは保険料にあります。
国保は収入に応じて保険料が変わりますが、医師国保の場合は収入に関係なく一定で、年収が上がっても保険料負担が増加することがありません。
法人化したら医師国保に加入することはできない
通常、法人になると社会保険に加入することになり、医師国保に加入することはできません。
しかし、個人事業としてあらかじめ医師国保に加入していた場合、その後法人化しても医師国保を継続することができます。
法人化した後も医師国保を継続したい場合には、「健康保険被保険者適用除外承認申請」をする必要があります。
これが年金事務所に承認されますと、医師国保を継続する事が可能です。
協会けんぽと医師国保、どちらに加入するべき?
先述の通り、個人事業としてあらかじめ医師国保に加入していた場合、医療法人化した後も医師国保を継続することが可能です。
そのような場合、協会けんぽと医師国保、どちらに加入するべきなのでしょうか?
ここではそれぞれの健康保険のメリットとデメリットについて解説します。
【協会けんぽ】加入メリットとデメリット
まずは協会けんぽの加入メリットとデメリットについて解説します。
メリット
協会けんぽに加入している医療法人では、自家診療の保険請求が可能です。
自家診療とは、医師が医師の家族やスタッフに対して診察し、治療する行為のことを言います。
国民健康保険や協会けんぽでは可能ですが、医師国保の場合はできません。
また、医師国保は扶養家族の数に応じて保険料負担が大きくなるのに対して、協会けんぽは扶養家族の人数に関係なく一律になるなど、保険料の面においても協会けんぽのメリットはあります。
その他、協会けんぽには以下のようなメリットもあります。
- 傷病手当金が出る
- 出産手当金が出る
- 育児休暇中は保険料の免除がある
これらは医師国保にはない制度です。(コロナ感染については医師国保でも傷病手当金が給付されます)
出産・育児の予定がある方は協会けんぽを選ぶのがおすすめです。
デメリット
医療法人は保険料の1/2を負担する必要があります。
これはクリニック側から見たデメリットで、スタッフが原則全額保険料を負担する医師国保に比べれば、スタッフから見ればメリットと言えるでしょう。
また、保険料が収入に応じて累進で設定されるため、給料の上昇に応じて従業員の保険料負担も重くなるというのも、協会けんぽのデメリットの一つです。
【医師国保】加入メリットとデメリット
次に、医師国保の加入メリットとデメリットについて解説します。
メリット
医師国保の大きな特徴の一つが収入によらず保険料が一定であることです。
東京都医師国民健康保険組合を例に挙げると、加入する医師(第1種組合員)は32,500円、従業員や家族(第2種組合員)は18,500円が月々の医療保険料として定められています。
保険料が収入に累進して課されてしまう国民健康保険と比較して、医師国保は保険料が割安になります。
また、健康保険のように従業員の保険料を折半する必要がないためクリニック側の負担が少なくなることもメリットの一つです。
さらに、医師国保には一般的な医療保険と同じく医療費の一部負担制度や各種検診を助成する制度、高額療養費の一部払い戻しや出産一時金の支給もあります。
デメリット
医師国保は収入に関係なく保険料が一定であることが高収入な医師にはメリットとなる一方、クリニックの経営難などによって収入が減ったときは保険料が割高になる可能性があります。
さらに、医師国保は他の健康保険に加入している家族を除いて同一世帯の扶養家族全員が加入する必要があります。
そのため、扶養家族の保険料がかからない健康保険と比べると扶養家族が増えるほど保険料の負担が大きくなるなどもデメリットといえます。
また、医師国保は従業員の保険料を折半しなくてよいため見かけ上は法人側の負担が少なくなるように思えます。
しかし、保険料の自己負担が増える医師国保を避けるスタッフもいるため、優秀な人材を採用できる機会を失う可能性があります。
なお、医師国保は自家診療分の保険請求ができません。ご自身が勤務する医療機関での診療は自費になってしまうため、他の医療機関を受診する必要があります。
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記事まとめ
この記事では、医療法人を設立する場合の健康保険の取り扱いについて解説しました。
医療法人を設立する際には、社会保険への加入が義務付けられています。
ただし、個人事業としてあらかじめ医師国保に加入していた場合、その後法人化しても引き続き医師国保に加入することが可能です。
医師国保は保険料が収入に関係なく一定に覚められているため、収入が高い医師ほど保険料の負担が割安になります。
また、医療費の一部負担や高額医療の一部払い戻し、出産一時金などの制度も利用できるため医療の必要性がある扶養家族がいる場合にもおすすめです。
一般的な健康保険と異なり、従業員の保険料を折半しなくてよいため保険料の負担が減るのもメリットと言えます。
その一方で、医師国保は減収した場合に保険料が割高になる可能性があるだけでなく、扶養家族が増えるほど保険料の負担も大きくなります。
自家診療の保険請求ができないのもデメリットの一つです。
既に医師国保に加入している場合は、これらのメリットとデメリットを照らし合わせたうえで、医師国保を継続するか、社会保険に加入するかを判断しましょう。