医療法人における税務処理の留意点について解説
医療法人化のメリットは、税制上の優遇、資産保護、寄付・助成金の受け入れ、組織の専門性、信頼性向上、事業の継続性です。
税制優遇により税金負担が軽減し、資産は保護されます。
医療法人の税務処理は、個人病院とは大きく異なるため、設立前に法人ならではの税務処理の知識をつけておくことが必要です。
この記事では、医療法人設立後の税務処理時に特に注意したい事項について解説。
さらに、日々発生する経費や雑収入の処理方法についてもご紹介します。
医療法人の設立をお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
医療法人設立後の税務上の注意点
医療法人の税務処理は、個人事業の場合と大きく異なる点も多いので注意が必要です。
ここでは、医療法人設立後の税務上の注意点について解説します。
医療法人に課税される税金の種類
個人クリニックの所得は事業所得となるため、所得税(復興特別所得税を含む)・住民税・事業税が課税されます。
その一方で、医療法人には法人税・地方法人税・住民税・事業税が課税されることになります。
それぞれの税率は次の通りです。
法人税
普通法人と同じ税率が適用されます。
区分 | 税率 | |
---|---|---|
資本金1億円以下の医療法人 | 所得金額が年800万円以下の部分 | 15% |
所得金額が年800万円超の部分 | 23.2% | |
資本金1億円超の医療法人 | 23.2% |
地方法人税および住民税
法人税の17.3%または20.7%になります。
また、均等割といい、所得と関係ない税金が年7万円以上課税されます。
事業税
所得の3.4%~5.23%が課税されます。
医療法人は所得金額に比例して税率が増えないのが特徴です。
消費税
- 自由診療報酬:課税対象
- 社会保険診療報酬:非課税
院長・理事長の給与と専従者給与との違い
個人病院や診療所(クリニック)は、営利目的の活動が可能です。
財産や収入は経営者個人に帰属するため、自由に使えます。
それに対して医療法人は個人である医師とは別人格になるため、経営で得た財産はすべて医療法人に帰属します。
これにより、医療法人では契約や報酬など事業運営に関する要素は、明確に医師個人と法人で区別されます。
たとえば、個人病院の場合、売上から経費を差し引いた事業所得はそのまま自分個人の所得になっていたかと思います。
しかし、医療法人化すると、個人と法人の財産が明確に分けられるため、医療法人の経営者となる自分自身に医療法人から給与が支払われることになるのです。
また、個人事業では専従者として届け出た者のみ給与の支給を受けることができました。
医療法人では法人の経営に従事すれば非常勤役員にも報酬の支払いができます。
ただし、“必要な時に必要なだけ”が許されていた個人事業と違い、過大な報酬・臨時的な報酬は税務上否認されます。
役員報酬は「定期に、定額に」が原則です。
臨時的な報酬(役員賞与)をとれば、法人税と所得税と二重に税金がかかることになります。(但し、事前届出等により損金は可能です。)
研修費・寄付金・交際費課税の問題
研修費については、学会や講演会への参加費用、それに付随する図書費用等は認められます。
税務調査の場合に問題となるのは、宿泊を伴って国内研修に参加した場合や、海外研修に参加した場合です。
この場合には、事業と関連しない個人的支出が計上されていないか、観光費用が含まれていないか、が検討されることになります。
したがって、事業に関連しない費用は精算しなければなりませんし、研修の目的を記載した証憑や日程表、研修した記録、領収書類を保存しておく必要があります。
交際費についても、事業との関連性が問題となります。
また、寄付金については、国・地方公共団体などに対する寄付金や特定公益増進法人などに対する寄付金であれば、その全額が損金となります。
その他の寄付金は一定の計算式で算出された金額のみが損金となります。
ただし、損金算入する場合には、その支出が裏付けられる資料を保存しておく必要があります。
特に、指定寄附金、公益増進法人等への寄附金は、証明書がない場合には優遇措置が受けられなくなる場合があります。
配当禁止と株価の問題
医療法人における剰余金の配当は医療法の第54条で禁止されています。
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。(医療法第54条)
これは、医療法上、医療法人は非営利的な性質を有するとされているためです。
非営利性といっても、利益を追求することは禁止されておらず、法に抵触しない限り、営利法人と同様の営利行為は可能です。
また、いわゆる配当類似行為についても医療法人は行うことができません。
配当類似行為とは、形式的には剰余金の配当ではないものの、実質的には利益配当と同様の経済的利益の供与があると認められる行為をいいます。
具体的には、以下に掲げられる行為を指します。
- 正当な理由なく役員等へ金銭などを貸し付けること
- 役員やMS法人などから資産を賃借する際、過大な賃借料を支払うこと
- 医業収入に応じた定率の賃料を支払うこと
- 役員等に対して過大な報酬または退職金を支払うこと
- 役員等の債務の引き受け、債務保証
つまり、役員やMS法人などとの取引において、実質的な配当と扱われるものについては行うことができません。
出資金1,000万円以上の場合の消費税課税事業者の問題
基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合には、消費税の確定申告・納付が必要になります。
医療法人の場合は、前々事業年度が基準期間にあたります。
つまり、出資金が1,000万円以上の場合は、設立初年度から課税事業者となってしまい、わずかですが消費税を納めなければなりません。
その場合でも、3年目からはほとんどの場合納税義務はなくなります。
役員貸付金と貸付金利息の問題
先述の通り、個人病院や診療所(クリニック)では、財産や収入は経営者個人に帰属するため、自由に使うことが可能です。
それに対して医療法人は個人である医師とは別人格になるため、経営で得た財産はすべて医療法人に帰属します。
つまり、医院からの金銭の引き出しは「役員への貸付金」として扱われることになります。
法人税法では役員への金銭の無利息貸し付けは認めていません。
そのため、院長・理事長等は金利を取られ、医療法人は「その金利(雑収入)に対して法人税を支払う」という結果になってしまいます。
法人契約の生命保険契約について
個人事業では、一定の場合を除き、事業主を契約者とする生命保険契約の保険料は経費にはならず、所得控除(生命保険料控除 最高10万円)しかできませんでした。
医療法人を契約者として、法人の役員を被保険者とした生命保険に加入しますと保険の種類にもよりますが、保険料の一定割合を損金として処理する事ができます。
さらに、法人契約の生命保険に加入することで、退職金の準備をすることも可能です。
また、設計の仕方によっては、将来解約した場合に解約返戻金が戻るようにできます。
このタイプの生命保険は、死亡保障・退職金の積立が同時に行える『長期平準定期保険』や『逓増定期保険』があり、将来の法人の継承にも有利です。
その他、留意すべき事項
個人事業と同様に医療法人にも税務調査があります。
日々の資料整備と記帳を正確に行なっていれば何ら問題はありません。
ただし、日々発生する経費や雑収入の処理についても、個人事業と異なる処理方法をとる場合や法人ならではの処理が必要な事項があります。
ここからは、日常的な税務処理において留意すべき点について解説します。
窓口一部負担金・自由診療収入・雑収入について
保険収入が大半を占める医療機関にとって、数少ない現金収入が負担金収入と自由診療そして雑収入です。
入金の流れ、原票の保管、何時の誰の診療かを明らかにし、入金モレの無いように残高の確認と日計の記録は大切です。
歯科では、銀の精製で再生し新たに材料となった(価値の生まれた)ものの収入への計上もれ等も注意しなければなりません。
また、院内に設置している自動販売機や、入院施設のあるところではテレビ代金など、医療とは直接関係のないところでの収入もチェックの対象となります。
従業員・非常勤職員等の交通費について
公共交通機関を利用したときに通勤にかかる交通費の非課税限度額は月額15万円です。
15万円を超えて支給された場合は、所得税が課税されることになります。
なお、非課税限度額は、最も経済的で合理的な経路と方法によって通勤した場合に認められます。
また、1ケ月あたりの非課税交通費は常時勤務している者に対するものであり、非常勤の医師等については適用できませんので注意が必要です。
源泉所得税の徴収について
扶養控除申告書の提出のある職員については、甲欄による所得税の源泉徴収をし、提出のない職員(主に非常勤職員)についても、乙欄での源泉徴収をしなければなりません。
日々の経費の支出と請求書・領収書の整備について
経費の中には、一度に経費として計上されるのではなく、減価償却されるものがあります。
減価償却とは、「時間経過とともに資産の価値が減っていく場合がある」という考え方です。
たとえば、高額な医療用機器を取得した費用などが減価償却に該当します。
この費用は経費計上できますが、取得した年度に一括で算入されるのではなく、耐用年数にわたり経費として算入するケースが多いです。
また、修繕費について、現状復帰のための支出は経費で計上されます。
ただし、元々の資産の価値を高めるような改良については一定の条件のもとに資産計上しなければなりません。
経費の用途と金額について整合性を出すために、請求書・領収書は大切に保管しておきましょう。
医療用機器・什器備品の購入と事業供用日について
医療用機器等の固定資産の減価償却開始日は事業に供した日(実際に使い始めた日)からです。
特に決算期末ギリギリの購入の際には、実際の納入期日等がチェックされるので、請求書・納品書は整備しておかなけばなりません。
また、医療用機器については、特別償却の適用も受けることができます。
リース契約の契約期間について
リース料は、税務上の経費として処理することができます。
仮に、リース期間が、その機器の法定耐用年数よりも短い場合、より早く経費化することができることになります。
リース期間は、法定耐用年数の70%(10年以上は60%)まで短くすることができるとされています。
ただし、リース期間が、その資産の法定耐用年数の70%(10年以上は60%)を下回ると、リース契約ではなく、「分割で購入した」とみなされることに注意してください。
記事まとめ
この記事では、医療法人設立後の税務処理時に特に注意したい事項について解説。
日々発生する経費や雑収入の処理方法についてもご紹介しました。
医療法人化によって、税務処理・経営管理の両面において経営者の負担は大きくなります。
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